若山 正人

数学はガリレオ・ガリレイの「宇宙は数学語で書かれている」などが示すように,自然科学の言語だと言われて久しい.それは工学や社会科学の言葉ともなった.また,近年まで遠いとされていた生物・生命科学の言葉でさえもありうることが実感される時代となった.さらに,自然科学,とくに物理学における発見や成果の中には,それを記述する言葉としての役割を超え,数学がその理論の骨子を見事に支えていたという事実を認めることも容易である.事実,ユージン・ウィグナーの1960年の論説「自然科学における数学の不合理な有効性」での指摘も思い出される.相対論は代表的な一つであるが,理論というのを待たずとも,虚数単位 もしかりである.つまり数学には言葉以上の役割がある.他方,たとえば20世紀には,産業や自然科学の要請により発見された数学の理論が,数学の内在的動機により大きく発展した.計算機性能が飛躍的に向上した現代,AI等をもち出すまでもなく,科学や技術において数学が身近に役立つことも信じるに足りる状況である.今後の科学と産業,ひろくは社会からの要請に応えるためには,新しい数学や数学語の発見が必要かもしれない.理研数理は,多様な観点から産業や社会を発展させるために,日本にはかつてなかった数理科学の計り知れない力を世の中に問う企業である.ときには工学や医療などを通じて,さらに,今は思い及ばないことでも長期的なビジョンを通して,である.数理科学への深い関心と豊かな才能をもった若い研究者が,理研数理を舞台に輝く成果を導き展開して,またその活動に仲間を巻き込むことで,さらなる数理科学者が育つことを大きく期待したい.数理科学を通じた学術と社会への貢献の正のスクロールが日本の持続的な発展に資することを願ってやみません.